
日本国の成長戦略に関する提案(4)
5.国際事業の活性化のために何を為すべきか
1)政府による日本国の成長戦略の発表
政府は既に日本国の成長戦略を打ち立て、次の17分野に政府投資を行うことを発表し、民間企業がこれに追随することを希望しているようだ。即ち、2040 年度までの累計で370兆円超)を 想定している。
①AI・半導体②造船③量子(量子コンピュータ・量子通信・量子センシング)④合成生物学・バイオ⑤航空・宇宙⑥デジタル・サイバーセキュリティ⑦コンテンツ(アニメ・ゲーム・マンガ・映像)⑧フードテック⑨資源・エネルギー安全保障・GX⑩ 防災・国土強靱化⑪創薬・先端医療⑫フュージョンエネルギー(核融合)⑬ マテリアル(重要鉱物・素材)⑭港湾ロジスティクス⑮ 防衛産業⑯ 情報通信⑰ 海洋。これら17の各分野は、有識者によって検討された結果であろう。また、グローバル事業展開についても分野ごとに考慮されているようであるので、何らの異を唱えることはない。ただ、現実の実務で、これらのグローバル事業展開が成功するか否かに注目しなければならない。
2)政府・企業・人の国際化
我が国における国際化は、政府として行うだけでは足りない。確かに、官(政府、官庁、公務員)によるその自覚と、公的機関でしかできない諸施策は極めて大切である。これらは、平等な国際条約・協定等の比準を基本とし、そのための国内法や行政システムの整備、これらの執行態勢の確立を、国際スタンダードに合致させて頂くことである。我が国は今や低開発国ではないので、防衛面は除いて政府が前面に出て、具体的な事案を作り出す必要はさほどない。日本政府としては、日本企業が国際事業を推進しやすい環境を整備して頂き、法的担保措置を確実にして頂くことが肝心なのである。その間、必要に応じて、国際均衡を見ながら、国際事業の活性化のために日本企業(場合によっては関係外国企業)に税制措置、公共事業、補助事業等をタイミングよく行い、これらに伴う行政指導をし、啓蒙活動をすることが必要である。
3)企業毎の国際化を推進するポイント
企業にとって、国際化を推進する一番のポイントは、国際レベル以上の高生産性のある国際事業の推進力の向上である。日本企業としては、外国企業と比較して競争力のある商品を開発し、その商品についての知財を確立し、またその知財に関する改良・改善(イノベーション)を繰り返し、高生産性を維持し続けなければならない。このような活動によって、外国企業との差をつけ続けながら国際化を拡大してゆくのである。また、国際事業を具体的に進めてゆくために、各々が自社に合ったビジネス・モデルの構築能力及びそれを推進する戦略と戦術を作って実行する必要がある。その前提として、企業内で国際事業に携わる方々が、欧米先進国並みの高いスキルを身に付けねばならない。
4)企業に最大利益を齎すビジネス・モデルと契約の追求
通常の事業は、自己活動と言うよりも、取引相手があってこそ自社も相手企業も、利益が生じて相互に伸長してゆく。大企業は、過去に培ってきた経営資源(ヒト・モノ・金・情報)が大きいので、どんなことにも対応できる。然しながら、中小企業は、経営資源が脆弱で、相手企業が大企業となると、当該大企業の歯車の一部に組み込まれ、大企業の意向に逆らえないことが多い。これは、当該大企業が国内事業体であっても、海外事業体であっても同様である。中小企業は資金回転が難しいので資金回収を早めたいこと等で、面倒見の良い大企業に頼るが、それによって大企業の罠に嵌ることがあるのである。大企業と中小企業には、上記のような関係が生まれ勝ちであるが、中小企業がかような関係から防衛するための最大のポイントは、中小企業自身が、特に、契約書作成能力とその交渉力についてスキルアップしてゆくことである。
6.国際契約書作成のために欠かせない準備
1)国際取引契約書の締結準備
国際事業には、契約書の締結が伴うのが一般的である。即ち複数企業間で、事業を推進し、参加する全企業が利益を享受しなければならない。そのために、関係企業が納得するビジネス・モデルを策定し、参加企業が各々のビジネス戦略とビジネス戦術を駆使することになる。その結果として、理想とするディールが遂行される。通常の取引契約は2者間のものが多いが、プランと契約、コンソーシャム契約、投資契約等では3社以上が参加することが多いので、その調整は極めて難しいものとなり、契約内容は複雑となる。ただ、現実に行われている取引や契約を見ると、2者間契約にすべきところ、3~4者間契約にしていることもみられる。これも間違いとは言えないが、実際の当事者関係は法的に極めて難しいものとなる。よって、ディールに入る前や契約締結前によく検討しなければならない。この準備無くしての契約締結は極めて危険である。
2)英文契約書の作成にあたっての必要知識の認識と習得
取引対象は、国内取引・国際取引を問わず、相互の財産を交換(一方的無償供給もある)することと心得るべきである。英米法上の契約では、約束事を固めるには対価(これをconsideration:約因と言う)が伴うことになっていて、通常、これが確認でき、法的強制力のある契約をcontractと言い、未確認の段階の契約をagreementと言う。ただ、considerationのない契約といえども、当事者がsealしたdeed(捺印証書)とすれば、有効な契約書となる。約因理論は英米法を準拠法とする場合の基礎知識であって、その他の国の法律を準拠法とする場合には、かかる理論は必要としない。また、世界の法律には、契約を「神」の介在で強制力があるようにしているものもある。そもそも、法治国家の下で契約を締結する意義は、当事者間に争いが生じた場合の解釈基準を当事者が取り決めたものと見るべきで且つ関係国が契約違反者に債務履行の強制又は懲罰若しくはその代替物の提供を求めることができるようにしていることである。よって、契約自由の原則よりも、特別な法律や商慣習が優先することがあるので注意を要する。
昨今、AIが発達し、AI至上主義的な風潮もあるが、英文契約書の作成では、AIを優先することは危険である。私見ながら、AIは多数決優先主義的のため、AIが多数決で選択した結果が誤りで、AIが無視した別の一つの選択肢こそが正解のこともある。このようなことを見極めるのは、正しい知識を地道に習得するしかない。例えば、上記英米法上のdeedやagreementの作成時に使用されるsealを、我が国の印鑑(stump)と同一視する説明がnet上で幅を利かせているが、これらは間違いなのである。
3)国際契約書の多くがなぜ英文で作成されるか
国際契約書の正文が英文となることは極めて多い。国際契約書の準拠法が、英米法でなくとも英文とすることが一般となっている。本来ならば、契約書の準拠法国の言語で契約書は作成されるべきであるのに!それは、準拠法国の契約当事者の言語で契約書を作成しても、相手方当事者が理解し難く、準拠法国の代理人弁護士に依頼しても不安があり、結局、全契約当事者(代理人やコンサルタント)が容易に理解できる言語として英文が選択されることが一般的となっているに過ぎない。よって、この問題は、準拠法と言語の関係として解決すべき課題が残るが、英文契約書の表現を磨き上げるしか解決法は無いと言える。17世紀に、英国で詐欺法が制定され、ある種の契約は書面契約でなければならないとした(その後の20世紀半ば、英国をはじめ各国で改正されて、詐欺法には大きな変化が生じた)。何はともあれ、詐欺法が、米国を含む英国連邦国伝播し、英文契約書が世界中で行われるようになったこともそれに由来する。
(つづく)
◆IBD情報のご利用メリット
IBDのウェブには、「取引戦略・実務データベース:Aデータベース(約5,000項目の国際取引と契約に関する解説文)」並びに「国際契約書データベース:Bデータベース(500種類の契約書式と約10,000の契約条項例;日本語、英語および中国語)」があり、会員様用に上記に関する基本的データを含んだ参考資料を搭載してご利用頂いている。これらを参考とすれば、この度のトランプ関税への対処策が見えてくる。
特に、日本企業にとって、国際ビジネスを輸出入ビジネス(売買)のみで推進することは、トランプ関税のような問題で、リスクヘッジか難しいので、他の取引形態を考えておかねばならない。即ち、海外投資ビジネス、知的財産活用ビジネス、国際分業ビジネス等々を推進できるようにし、状況に適った高生産性ビジネスを目指す必要がある。かかるビジネスは、一朝一夕で推進できないので、日常から専門英語、国際法、国際慣習法、商学、国際経済学、その他の必要知識を習得しておかねばならない。そのためにも、IBDのデータベースが、国際事業を推進する皆様に参考となると確信する。
