1.国際事業の発展という観点からの日本国の成長方法
国際ビジネスのコンサルタントを長年やってきて、多くの内外の企業から国際事業の相談を預かって来た実績を踏まえ、日本国の成長の重要な要素である国際事業の発展という観点から日本国の成長戦略に関する私見を述べる。
6)国際事業の活性化が必要な理由
前回のブログで、我が国の国際収支を紹介した。我が国は、「直接投資収益」、「証券投資収益」及び「その他投資収益」などから構成される第一次所得収支が大幅な黒字であるので、貿易・サービス収支と第二次所得収支が赤字であっても、経常収支が黒字と云うことになっている。然しながら、第一次所得は、基本的にその殆どが過去からの遺物で、帳簿上海外にあるだけで、実際に日本国民を潤していない。よって、かような形での経常収支が黒字であっても、一般日本国民は、その恩恵に預かっていないのである。即ち、貿易・サービス収支が黒字化しない限り、我が国民の所得や財産は潤わない。ということは、我が国の企業がもっともっと国際事業を活性化し、貿易・サービス収支を黒字化する必要がある。
7)実質所得の増大化が急務
我が国は、過去40年間、実質所得が殆ど上がっていない。計算対象の所得者の大半は給与所得者であるが、この間5%程度しか一人当たりの給与額が上昇していないのである。その結果、一人当たり国民所得は、世界で40番目辺りを彷徨っている。この間の主要国の名目賃金と実質賃金に言及すると、米国の約名目賃金が2.5倍(実質賃金は1.5倍)、英国の名目賃金が約2,4倍(実質賃金は1.5倍)、ドイツの名目賃金が約2.0倍(実質賃金は1.4倍)、フランス名目賃金が約2.0倍(実質賃金は1.4倍)となっている。
しかし、かかる現象は、我が国企業にとって、これらの国を含む世界各国と国際取引を増加させる絶好のチャンスと言えるのである。我が国企業は、物品の価格や知財のライセンスの対価を大きくするなどして、より付加価値の高い国際事業が推進できるのである。但し、このためには、国際事業を推進する戦略と戦術が必要である。
8)対米貿易の不安定要素
かような時期に、米国のトランプ大統領が、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠として、関税率の引き上げを主張し、我が国のみならず、各国と貿易摩擦を生じさせている。大統領の権限で、関税の引き上げが可能かどうかの問題は、米国の司法界(裁判所)で、不可能との判決がなされた。しかし、トランプ大統領は、それにめげず、米国通商法301条と通商拡大法232条を持ち出してきて、米国の関税率を10~15%又はそれ以上にすると言い出してきた。米国の経済の不安定性から、大統領として、関税でこれを是正しようというものであろうが、これは、長年培ってきた国際貿易の発展に反する。また、米国の確立された経済を、関税率を高くすることは、反って米国経済の案態勢を損なう恐れがある。高くした米国の関税を支払わねばならないのは、米国企業や米国人だからである。かような理不尽なことは、米国以外の国との関係でも発生し得るので、日本は、政府としても企業としても、国際事業に関する米国を含む外国企業との交渉で、しっかりと対処できるスキルを身に着けて当たらなければならない。企業としてのその根幹は、国際契約書の充実である。
2.先ず、日本企業の生産性の向上対策が必須である
現在の日本の経済社会には大きな課題があるので、先ず、それらの課題の解決を先行させるべきであろう。
1)低生産性国からの脱却
現在の我が国の経済の課題には様々なものがあるが、主に食品価格の調整、低賃金の底上げ、生産性の向上がある。この中でも、生産性の向上が最重要で、これを達成できれば、食品価格の調整、低賃金の底上げ、その他のわが国の多くの課題も達成できる。生産性というのは、単に量的な物の増加を言うのではなく、経済活動によって生み出される成果数値(金銭)を投下資源数値(金銭)で割り算した結果数値(パーセンテージ)を高めることを言う。その数値が高ければ高いほど生産性が高いのだ。生産性が高いと、可処分所得率が高くなり、国民一人一人の消費意欲が大きくなって、経済循環を大きくさせる。残念ながら、我が国企業の生産性は1990年頃からどんどん下がり、経済萎縮となってしまった。これこそが、我が国経済の低成長の大きな原因である。
2)大企業の請負ビジネスからの脱却
我が国には、500万社を超す企業があるが、その中、大企業は1万社以下である。ところが、賃金労働者数比率は、大企業:中小企業=30%:70%が凡そであり、中小企業の大半は、大企業の下請け的企業のようになっていて、大企業から生かさず殺さずの処遇を受けている。然しながら、下請け企業の多くは、大企業の下請け事業の獲得に血眼で、各々その身を削り、大企業から切り捨てられないように利益を削って、大企業のご機嫌を損ねないようにしている。これにより、下請け企業の生産性(利益率)は底辺を這ったままが何十年も続いている。かような状況では、中小企業の大企業からの独立の可能性は小さく、低生産性からの脱却も難しい。
3)中小企業の貿易ビジネスの実態の認識
国際事業が可能な中小企業は、我が国に10万社程度もあって、中にはグローバルに活動している企業もあるが、その殆どは貿易ビジネス、即ち物品の輸出事業及び輸入事業に頼り、知的財産取引や資本取引をあまり行っていない。また、これらの貿易ビジネスには、日本企業と外国企業との間にも大企業が入り込んで、多くの収入を得ているのである。現在、食料品の輸入ビジネスが盛んであるが、外国の輸出企業を探し出して、大掛かりな輸入ビジネスを展開しているのは殆ど大企業である。また、日本の中小企業が開発・発見した海外の商品や取引先も、大企業に横取りされてしまうことが多く、これは、大企業のみに責任があるのではなく中小企業の能力不足が基本にあるり、中小企業の知識・戦略・戦術不足や契約書の不備からも来ている。日本の中小企業が外国の輸出入企業を探し出して、取引を開始しても、基本的能力不足や契約書の不備で長く続かない。そこで、次々と新規の取引策を探さねばならなくなる。また、中小企業が開発した知的財産についても、大企業を介することによって、中小企業は知的財産管理にかかわる費用とリスク負担をさせられることも多く、これらも中小事業におけるコスト高の一因となり、低生産性の大きな要素となっている。
以上
(つづく)
◆IBD情報のご利用メリット
IBDのウェブには、「取引戦略・実務データベース:Aデータベース(約5,000項目の国際取引と契約に関する解説文)」並びに「国際契約書データベース:Bデータベース(500種類の契約書式と約10,000の契約条項例;日本語、英語および中国語)」があり、会員様用に上記に関する基本的データを含んだ参考資料を搭載してご利用頂いている。これらを参考とすれば、この度のトランプ関税への対処策が見えてくる。
特に、日本企業にとって、国際ビジネスを輸出入ビジネス(売買)のみで推進することは、トランプ関税のような問題で、リスクヘッジか難しいので、他の取引形態を考えておかねばならない。即ち、海外投資ビジネス、知的財産活用ビジネス、国際分業ビジネス等々を推進できるようにし、状況に適った高生産性ビジネスを目指す必要がある。かかるビジネスは、一朝一夕で推進できないので、日常から専門英語、国際法、国際慣習法、商学、国際経済学、その他の必要知識を習得しておかねばならない。そのためにも、IBDのデータベースが、国際事業を推進する皆様に参考となると確信する。


