3.対米関税対策は、変動為替対策に類似する
米国大統領の関税の高率化政策は、目当てとする国に向けての機関銃作戦のようなものである。確かに、機関銃の弾に当たった各国の企業は、きわめて不幸とは言えるが、長い目で見れば、乱射される機関銃の弾に当たらない方法か瀕死の重傷を負わない方法がある。それは、各国とも採り得る「対米ドル為替対策」であり、「金利対策」である。
対米ドル為替対策は、国家ベースのものと、企業ベースのものとがある、国家ベースの対米ドル為替対策は、政府の財務金融部署や中央銀行(政府等と云う)が、米国大統領が決定する米国関税率に応じた為替レート(我が国の場合、米ドル円相場)の調整誘導である。現在、我が国は変動相場制を採用しているので、原則として政府は為替相場に影響をするような行為をしないことになっているが、あまりに強引過ぎる米国大統領の関税率の上昇政策には、我が国経済が打撃を受けないように防衛策を講じても、米国は文句をつけられない筈である。具体的には、我が国の対米輸出商品に米国が25%の輸入関税をかけるというならば、その分、円安誘導をするのも一案である。
円相場は、1871年に1米ドル=1円で始まり、その後日本も本格的な金本位制に移行して、1米ドル=2円とした。その後にも特に第一次大戦中は、1米ドル=1円台の円高に進んだこともあるものの。1932年に第二次世界大戦に突入して1米ドル=5円となったが、この時我が国はすでに金本位制を停止している。その後は、我が国の敗戦時のGHQの下で1米ドル=15円から始まり、翌年には50円、1948年には270円となり、1949年に1米ドル=360円の固定相場制に移行した。その後、固定相場制は事実上崩壊し、1米ドル=308円時代を経て、1973年に変動相場制へ移行した。
その後、米国の経済事情から円高が進み、1995年には1米ドル=79円75銭になった。しかし、その後日本のバブル経済が崩壊し、1998年には1米ドル=140円台まで円安が進んだ。しかし、2008年のリーマン・ショックにより米ドル安となり、またまた、2011年には1米ドル=75円32銭をつけるまでの円高となった。ただ、その後は円安基調(1米ドル=140円~150円)で動いている。これらの記載は非常に大雑把なドル・円為替レートの変化を見たものであるが、為替レートの変動は、とんでもない時期があったことを窺い知ることができる。そう見ると、日本政府は、米国の一方的な関税政策に対抗して、思い切った「対米ドル為替対策」=「円安対策」を取ることが容易にできるということだ。そこにおいては、米国に遠慮することは何もない。
(英国も長い間通貨としてポンド(£)を利用し第二次大戦直後も基軸通貨としての地位を守り、1 £=1008円時代を続けたが、間もなく変動相場制に移行し、現在に至っている。)(また、通貨としては、1999年に最終的に確立し、現在、EU加盟国を中心に約20か国で採用されているユーロ=€:EURがあって国際決済通貨として広く利用されている、)
米国が関税率の引き上げをすることに対しては、我が国は関税の引き上げや、米国向け迂回輸出などよりも、「対米ドル円安対策」を取るのが効果的と言える。結論的に言えば、米国が恣意的に米国輸入品の関税率を引き上げるならば、我が国は、これを為替レートの調整で対抗するのも1方法である。我が国の国際取引は、米ドル建てが多いので、対米ドル為替レートは、輸出入取引全体に影響を及ぼすものである。
4.契約書における関税や為替レート変動リスク回避の条文例
●売り手(輸出者)有利の関税等への対処条文例。
下記は、国際売買契約書に利用される具体的な増加費用対策である。関税率の変動によって、その変動リスクを売り手と買い手のどちらが負担するかを明確にし、特に売り手としては、買い手に負担してもらうという条文例である。
Increased Costs
If Seller’s costs of performance of this Agreement are increased after the date hereof by reason of any change of freight rates, taxes, tariff or other government charge or insurance rates including war risk and other special risk, Buyer shall compensate Seller for such increased costs or losses of income.
増加費用
本契約履行上の売り手のコストが、本契約の日付け後、運賃、税金、関税若しくは他の政府による課徴金又は戦争危険及び他の特別危険を含む保険料の変動のために増加した場合、買い手は、かかる増加費用又は収入損失について売り手を補償するものとする。
●日本企業の為替レートの変動への対処条文例。
Exchange Rate
The price mentioned herein are calculated at the exchange rate of Japanese Yen ( ) to US$1. In case there is any change in such exchange rate on the day of the negotiation of the relative draft, the price shall be adjusted and settled according to the corresponding change so as not to decrease Seller’s income in Japanese Yen.
為替レート
本契約中に表示した価格は、US$1あたり日本円( )の為替レートで計算されている。価格は、関係手形の買取り日に該為替レートに変動がある場合、日本円での売り手の手取り額を減じないように、かかる変動に応じて調整され且つ決済されるものとする。
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特に、日本企業にとって、国際ビジネスを輸出入ビジネス(売買)のみで推進することは、トランプ関税のような問題で、リスクヘッジか難しいので、他の取引形態を考えておかねばならない。即ち、海外投資ビジネス、知的財産活用ビジネス、国際分業ビジネス等々を推進できるようにし、状況に適った高生産性ビジネスを目指す必要がある。かかるビジネスは、一朝一夕で推進できないので、日常から専門英語、国際法、国際慣習法、商学、国際経済学、その他の必要知識を習得しておかねばならない。そのためにも、IBDのデータベースが、国際事業を推進する皆様に参考となると確信する。

